2014年7月3日木曜日

tobaccoの薬理作用に関するメモ(2)

2,禁煙うつだけじゃない

長年喫煙していて禁煙した人は禁煙1〜2年以内にうつを経験する確率が高い。

私はこのことを2000年ごろから公言していましたが、当時は全く信じられていはいませんでした。むしろ喫煙者はうつになるとか、禁煙して性格が明るくなったとか、そんな誤った情報ばかりでした。

十数年経過した今では禁煙うつ期間があることは常識となっています。
喫煙習慣から抜け出す時の禁断症状の中では、このうつが最も厄介です。


うつの原因として、喫煙習慣自体がアセチルコリンの分泌を減らしたりアセチルコリン受容体数を減らすからだという説がありますが、これは間違いです。

もしもそうであれば、喫煙者自体や禁煙直後から深刻なうつや脳細胞の萎縮が起きているはずです。実際にはそうはなりません。むしろうつが発現してくるのは、タバコをやめて久しい、もはや依存からは完全フリーのはずの禁煙半年〜1年目以降からです。

実際のところ喫煙習慣自体はアセチルコリン受容体の数を増やします。
禁煙後に、それまでに増えた受容体を賄うだけのニコチン供給がストップしてしまったために、サボっていても良かったアセチルコリンの分泌が急激に必要になることは確かです。しかしそれはすぐに復活し補われます。離脱症状が数日で消えるとはそういうことです。

やっかいなのは、復活したといっても喫煙していた時期の分までアセチルコリンが増えるわけではないという点です。そのことはつまり、それまでニコチンの影響で増えた受容体の分だけ、アセチルコリンが足りなくなるということを意味します。

受けるものがなくなってしまった受容体はどうなるのでしょうか。それは違うものを受け取るか、死滅するかのどちらかしかありません。

違うものとは、我々が普段「ストレス物質」と呼んでいるものです。

喫煙(禁煙)とうつの本当の関係性は、より社会学的、心理学的な側面からも論じないと説明がつきません。近年うつの患者の実数が増えていることとも深い関係があります。

人間は強い心理的ストレスを受けた際、強い毒性を持つ物質が発生します。詳細については割愛しますが、簡単に言うとコルチゾンというホルモンやアセトアミドと呼ばれるものなどで、通常はリンパ節や肝臓でデトックスされるのですが、許容量を超えると体内蓄積が始まります。これはガン細胞を作り出したりアセチルコリン受容体にアセチルコリンやニコチンとは全く逆の作用を持つドーパミン抑制物質として働き、脳細胞の萎縮を引き起こします。
ニコチンは適切なドーパミン脱抑制を通じてこの許容量を超えた分が受容体と結びつくことを防ぎ、さらにそれによってストレス物質のキレーションまでしてくれるのです。

喫煙はストレスの軽減に大きな効果があることは医学的にも証明されていますが、喫煙者はそれまでこのストレスの解消をほぼニコチンに頼っていたために、禁煙後にそれに匹敵する方法を見出す事が難しい傾向があります。それだけニコチンの効果が強いという事です。

喫煙者がタバコを吸わないとイライラするというような話がまことしやかに言われています。実際喫煙者が短時間の断煙でイライラするのはニコチン切れによるものではなく、後述するコチニン効果によるもので、覚醒が進んだ状態です(コチニン効果は医学的にはまだ証明されていません)。
それよりも、禁煙後1年以上経過のイライラの方がより強く、対人許容度が著しく低下していることの方に注目しなければならないと思います。

禁煙によってストレス物質がデトックスされずに蓄積し始めると、徐々にストレスの発生源に対して強い警戒心や拒否反応が本能的に起こります。
これが長期間に渡って続くと、うつが発現するのです。うつとは社会的ストレスからの隔絶であり、身体と心がホメオスタシスを取り戻すために起こすための最終反応です。

しかし、実のところ、禁煙だけがうつの原因なのでしょうか。
私はむしろ喫煙経験のない人がうつになった時に、そもそも人間が本来の社会生活では失わなかったはずのものを、喫煙習慣を持たないことで失いつつあるのではないかと感じるのです。

それは打たれ弱い人があまりに多くなったと感じる事と関係があるようです。
いや、打たれ弱いというよりも、今までならうつになってもおかしくなかった社会的ストレスの多くは、喫煙で対症療法的に「簡単に」解消されていたのではないのか?ということです。

ゼロストレスで社会と向き合うことは不可能です。
ルネサンス以降の文明の飛躍的発展と産業革命、現代に至るまで、私達の社会的抑圧やストレスは増す一方です。その傍らでtobaccoは常に人間に最も身近な頓服としての歴史を歩んできました。

そのピークは紙巻きタバコが世界的に普及した第二次世界大戦後まもなくのことで、成人男性の実に80%以上が喫煙者となる時代がありました。世界的に驚異的なスピードで戦後復興を成し遂げた裏には、ストレスや無理を強いて励んだ労働があります。そのストレスを人々はタバコやお酒で癒やしたのです。

時間刻みのスケジュールで動かなければならない現代社会において社会的心理的ストレスなしで生きることは100%不可能と言っていいでしょう。
もしもこのまま喫煙人口を減らしながらうつも減らしたいのなら、労働時間を現在の半分程度まで減らし、経済活動のスピードを緩めれば緩めるほど発展する文明を創りださなければならないでしょう。


ニコチンは、ドーパミンの抑制及び脱抑制の両方を行います。そのために常に人間の活動を促すために必要な量のドーパミンとセロトニンの生産を適正に保つ薬理作用があります。他の薬物のような、いたずらにアセチルコリンの代わりにドーパミン放出の指令だけを出すのではないのです。
問題は、禁煙後はニコチンの補佐がないので、そのバランスが崩れやすくなるということと、ニコチンに匹敵するような適切なドーパミン放射の方法を見出しにくい事にあります。

禁煙うつから脱するのに最も効果的な方法は、全くもって楽しい事ばかりの牧歌的な生活を送るか、筋力負荷の高い運動を継続的に行うか、断食、玄米食療法、瞑想のいずれかです。

でもそれは喫煙習慣が新大陸から入ってくる以前の精神生活に戻るということも意味しているかもしれません。



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